「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入と為替への影響

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入と外国為替への影響

2016年9月の日本銀行・金融政策決定会合では、これまでの「量的・質的金融緩和」と「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の取りまとめと、新しい金融緩和政策として「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が決定されました。

今回は、金融緩和の検証内容の概要と、新たに導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」について見てみましょう。

これまでの「量的・質的金融緩和」の概要とその効果

2012年末の政権交代にともない、政府・日銀は「アベノミクス」の実現に向けて足並みを揃えた金融政策として、「量的・質的金融緩和」を導入しました。

2014年10月の追加緩和、2016年1月のマイナス金利の導入と合わせて、その概要を振りかえってみましょう。

2013年4月に導入された「量的・質的金融緩和」

量的・質的金融緩和は「アベノミクス」が掲げる「3本の矢」のうちの1つであり、消費者物価の前年比上昇率を2年のうちに2%に引き上げることを目指していました。

その内容を見てみると、

  • 量的緩和…マネタリーベース(資金供給量)を年間60兆~70兆円増やし、2年間でそれまでの138兆円から270兆円に倍増。長期国債を年間50兆円規模で購入。
  • 質的緩和…40年債を含む全ての長期国債を買い入れと、保有する国債の払い戻し(償還)期間を7年程度へ延長。上場投資信託(ETF)を年間1兆円規模、J-REIT(不動産投資信託)を年間300億円規模で購入。あわせて、「銀行券ルール」も一時的に停止し、無制限買い取り。

というものでした。

2014年10月の追加緩和と2016年1月のマイナス金利の導入

これまでにない規模で導入された量的・質的金融緩和により、一時は2%の物価目標達成も目前でした。

しかし消費税増税や世界経済の減速などにより物価上昇率は下落に転じたことから、2014年10月の追加緩和と2016年1月のマイナス金利の導入に踏み切ります。

その内容を見てみると、

  • 質的緩和…マネタリーベースが年間約80兆円(約10~20兆円追加)に相当するペースで増加するよう調節。
  • 質的緩和…長期国債について、保有残高が年間約80兆円(約30兆円追加)に相当するペースで増加するよう買い入れ。買い入れの平均残存期間を7年~10年程度に延長(最大3年程度延長)。ETFは年間約3兆円(3倍増)、J-REITは年間約900億円(3倍増)のペースで増加するよう買い入れ。合わせて、JPX日経400に連動するETFを買い入れ対象に追加。
  • マイナス金利付き量的・質的金融緩和…金融機関が日本銀行に預けている無利息の当座預金(日銀当座預金)のうち、一部について0.1%のマイナス金利を導入(総額220兆円のうち40兆円・2016年3月計算)。

となり、従来の量的・質的金融緩和を更に強化する方向性を明確に打ち出しました。

量的・質的金融緩和の導入はどのように影響したのか

「量的・質的金融緩和」を導入してから3年余りが経ったことで、経済・物価は大きく好転し、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレは解消したものの、「物価安定の目標」として掲げた消費者物価前年比2%は実現できてないとしています。

検証を踏まえて導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」

この検証結果を踏まえて、新たな緩和政策として「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入されました。その内容を見てみましょう。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の導入

今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の目玉として導入されたのが、償還までの期間(残存年数)の異なる金利(利回り)を線で結んだ曲線(イールドカーブ)を任意に操作するイールドカーブ・コントロールです。

イールドカーブ・コントロールの具体的な方策としては、

  • 短期金利…日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用。
  • 長期金利…10年物国債金利がおおむねゼロ%程度で推移するよう長期国債を買い入れ。平均残存期間は廃止。

をあげています。合わせて、長短金利操作のための新型オペレーションとして、

  • 日本銀行が指定する利回りによる国債買い入れ(指値オペレーション)
  • 固定金利の資金供給オペレーション期間を10年に延長(現在は1年)

も新たな政策として採用されました。

従来通りの方針を維持する資産買い入れ

目玉であるイールドカーブ・コントロール以外の資産の買い入れを見ると、ETF(年間約6兆円)とJ-REIT(年間約900億円)、CP等(約2.2兆円)や社債等(約3.2兆円)などの各種資産は従来のペースを維持するとしています。

「2年で2%の「物価安定の目標」」の撤回とオーバーシュート型コミットメントの導入

量的・質的金融緩和の導入当初、2年で2%の「物価安定の目標」が目標とされてきましたが、3年近く経った現在でもこの目標は達成されていません。

このため、2年で2%の「物価安定の目標」を撤回し、新たに「オーバーシュート型コミットメント」が導入されました。

 

これは、2%の「物価安定の目標」の安定した持続のために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続するコミットメント(公約)であり、質・量に時間軸を設定することでより効果的な政策になることを狙う方針と言えます。

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入による為替への影響は?

今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入により、従来の金融緩和方針を維持・強化しつつも、限界が見えはじめている金融緩和の出口を探りはじめたと言えます。

現在80%近い水準にあるマネタリーベースの対名目GDP比率は、1年程度で先進国でははじめて100%(約500兆円)を超えると予想され、その影響は予想できません。

外国為替市場は新たな緩和を受けて、1ドル=100円台を目安とした値動きが続くなど、その先行きに予断を許さない状況が続いています。

おわりに

最初に導入された「量的・質的金融緩和」から見ると随分と複雑な仕組みとなった「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」ですが、その効果は未知数です。

今後の株式・外国為替市場の動向と合わせて、今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」がどう影響するのかは要注目といえるでしょう。

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