環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の概要と為替への影響

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2016年2月4日に加盟各国の担当者による署名に至ったことで、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement = TPP)は発効にむけて大きく前進しました。

関連するニュースを目にしない日はないと言っても過言ではないTPPですが、その悪影響こそ取りあげられるものの、協定の内容に触れられることはほとんどありません。

今回の署名に至るまでのTPPの概略とその内容、気になる為替への影響を見てみましょう。

今回の署名発効までのTPPの概略

長らく続いた交渉がまとまり、関係国担当者による署名までこぎつけたTPPですが、ここに至るまでにどのような歴史を辿ってきたのでしょうか。今回の署名に至るまでのTPPの概略を見てみましょう。

  • 2006年…シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブラジルの4カ国でかわされたP4協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement = 環太平洋戦略的経済連携協定)が成立・発行。TPPの原型となる協定
  • 2008年9月…アメリカがP4協定との交渉開始意図を表明
  • 2010年3月…P4協定にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナムを加えた8カ国の交渉がはじまる。初の拡大交渉会合
  • 2010年10月…マレーシアが交渉に参加。9カ国間交渉に拡大
  • 2011年11月…日本、カナダ、メキシコが交渉参加の意思表示
  • 2012年10月…カナダ、メキシコが交渉に参加。11カ国間交渉に拡大
  • 2015年10月…各国間で大筋合意
  • 2016年2月…署名発効

このように、最初期には太平洋を囲む国々の中でも経済規模が小さい国同士の経済協定だったP4協定にアメリカが参加したことで周辺各国が次々と参加、3,100兆円/8億人に影響する巨大な経済協定となりました。

TPPの発効により期待される経済効果とは

TPPとは自由貿易協定の主要な項目をカバーする包括的な協定であり、TPP導入によるメリットとして、「21世紀型の新たなルールの構築」と「中小・中堅企業、地域の発展への寄与」、「長期的な、戦略的意義」の3つがあげられています。その内容を見てみましょう。

21世紀型の新たなルールの構築

  • TPPは、モノの関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業の規律、環境など、幅広い分野で21世紀型のルールを構築するもの。
  • 成長著しいアジア太平洋地域に大きなバリュー・チェーンを作り出すことにより、域内のヒト・モノ・資本・情報の往来が活発化し、この地域を世界で最も豊かな地域にすることに資する。

中小・中堅企業、地域の発展への寄与

  • TPP協定により、大企業だけでなく中小企業や地域の産業が、世界の成長センターであるアジア太平洋地域の市場につながり、活躍の場を広げていくことが可能になり、我が国の経済成長が促される。
  • ヒト、モノ、資本、情報が自由に行き来するようになることで、国内に新たな投資を呼び込むことも見込め、都市だけではなく地域も世界の活力を取り込んでいくことが可能となる。

長期的な、戦略的意義

  • 自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々とともに貿易・投資の新たな基軸を打ち立てることにより、今後の世界の貿易・投資ルールの新たなスタンダードを提供。
  • アジア太平洋地域において、普遍的価値を共有する国々との間で経済的な相互依存関係を深めていくことは、地域の成長・繁栄・安定にも資する。

出典:TPPとは | TPP政府対策本部

TPP参加によるメリットとデメリット

TPP参加で期待されるメリットはいくつかありますが、そのほとんどは関税撤廃などにより域内の貿易が促進されることで生じると考えられています。

具体的な項目として見ると、輸入食品の値下げ圧力や工業製品の輸出拡大、企業内貿易の効率化による利益の拡大が期待されています。

反面、域内では平等な条件での市場のシェアの奪い合いが起きるため、安価な海外製品の流入によるデフレの発生や、アメリカなどの農業国からの農作物の輸入超過、知的財産権をめぐる国際訴訟の急増などが懸念されます。

知っておきたいTPPの3つのリスク

このようなメリットとデメリットが考えられているTPPですが、TPPに潜むリスクはあまり知られていません。それが、ISDS(ISD)条項とラチェット規定、訴訟リスクです。それぞれの内容を見てみましょう。

企業対政府の訴訟を可能にする「ISDS(ISD)条項」

ISDS(ISD)条項とは、自由貿易協定(FTA)などを締結した国家間で外国企業が相手国政府から不当な差別を受けて不利益を被ったときなどに、相手国政府に対して訴訟を起こせるとする条項です。

ISD条項がない場合、企業と国の間にトラブルが発生したときには相手国の裁判所で訴訟手続きをおこなう必要がありますが、ISD条項があれば相手国の裁判所を経由せずに訴訟手続きを進めることができます。TPPでは訴訟の乱発を防ぐことを条件に2013年11月に合意されています。

規制強化を規制する「ラチェット規定」

ラチェット(ratchet)は「つめ車」とも訳される語で、つめが引っかかることで逆回転を防止する構造になっている装置のことを言います。TPPを含む経済連携協定(EPA)などでは、自由化や解放に結びつく法改正は認められるものの、規制の強化に結びつく改正は認められないとする規定を意味します。このラチェット規定もTPPに導入されていて、2013年11月に日本を含む参加12カ国により合意に至っています。

TPP離脱に対する訴訟リスク

TPPのルール上、離脱はいつでもできると明記されていますが、いざ離脱となると海外企業から巨額の損害賠償請求訴訟が乱発されることが懸念されるため、実際にTPPを離脱することは極めて難しいと言われています。

TPP発行によって考えられる為替への影響

このように産業構造に対する大きなインパクトが考えられるTPPですが、為替取引にはどのような影響があるのでしょうか。

TPPの発効により加盟国間での輸出競争が激しくなり、各国の通貨安政策が強まることが考えられます。TPP加盟国の中ではアメリカに次ぐ経済規模を持つ日本も例外ではなく、アベノミクスと合わせて円安誘導を望む声はますます大きくなることが考えられます。

このような通貨の動きとは別に注目したいのが、アメリカ合衆国通商代表部(Office of the United States Trade Representative = USTR)代表が、TPPに「為替操作条項」の追加を要求していたことです。

為替操作条項は対象国が通貨操作をおこなっていると条項採用国が認定したときに、対抗処置として条項国が対象国からの輸入品に対して関税をかけられる報復措置であり、中国を念頭に置いているものの、アベノミクスによる円安誘導を続ける日本に対する牽制も果たしています。

現時点ではTPPの枠内では導入は見送られたものの、TPPとは別枠で成立・発行させるという話もあるため、その動向が今後の外国為替市場に大きく影響する懸念があります。

おわりに

世界の経済規模の4割を占め、総人口の1割にも届くTPPは、21世紀の世界経済の枠組みにも大きく影響すると考えられ、その行く末には大きな注目が集まっています。

今回の署名発効により加盟国間での交渉はひとまず完結し、今後はそれぞれの国での法整備などがはじまり、実際に発効にこぎつけるかも含めて、その動向には大いに注目する必要がありそうです。

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